研究概要 |
SSPE剖検例について、Reverse Transcription-coupled Polymerase Chain Reaction (RT-PCR)法を用いてSSPEウイルス(変異麻疹ウイルス)遺伝子の塩基配列を解析した。凍結保存した大脳およびリンパ節組織よりtotal RNAを抽出し、reverse transcriptase (RT)を用いてcDNAを作製し、PCR法によりウイルス遺伝子を増幅した。Primerとして既知の麻疹ウイルスEdmonston株の塩基配列を合成して用いた。PCR産物は電気泳動により分離し精製した後、クローニングし、塩基配列を決定した。その結果、大脳およびリンパ節のいずれからもウイルス遺伝子が検出された。6種のウイルス構成蛋白のうち、Matrix protein (M)遺伝子についてはcoding領域全長の塩基配列を決定した。大脳由来の10クローンに共通の多数の塩基変異が認められた。また新たに終止コドンが生じており、塩基配列から推定されるアミノ酸配列は異常に短いものと推定された。リンパ節由来の12クローンには大脳由来のクローンと共通の塩基変異が認められ、さらに2〜19カ所に塩基変異が追加されていた。うち4クローンでは大脳由来のクローンと同部位に終止コドンが見られたが、他の8クローンでは終止コドンの位置が変化していた。いずれのクローンでも推定されるアミノ酸配列は麻疹ウイルスのそれと比較して短いものであった。NP, P, F, H, L遺伝子についても同様の検索を行った。いずれの遺伝子も大脳およびリンパ節の両方で検出され、塩基変異が確認された。一般にSSPEウイルスは中枢神経系に持続感染すると考えられている。今回の研究の結果、ウイルスはリンパ節にも検出され、さらに大脳と比較して塩基変異がより高度であることはSSPEの持続感染を考察する上で極めて重要な所見と考えられた。
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