研究概要 |
原発性胆汁性肝硬変(PBC)は,自己反応性T細胞による肝内胆管の破壊により惹起されると想定されているが,その詳細な機序は明らかでない。われわれはPBCの病因について,免疫遺伝学的解析と胆管障害に関与する標的抗原について解析を行い次の結果を得ている。 1)免疫遺伝学的解析:HLAのセロタイピングとDNAタイピングによりHLADR8遺伝子が疾患感受性遺伝子と推定された。中でもDRBl*0803が高頻度に検出された(PBC22/31例,健常人32/216例,corrected P<0.0001,J.Hepatology21:1053)。HLA近傍に存在し,抗原ペプチドのER内への移送を担うTAP-1(allele typeA,B,C,D),TAP-2(allele typeA〜H)についてはPBCと健常人とで検出率に差異を認めなかった。しかし新しく同定したTAP-2 allele typeBのpoint mutant BKy2(未発表)はPBCで25%,健常者で5.1%に検出され,有意差を認めた。抗原ペプチドとMHC claccII分子の結合安定性に関与するDM遺伝子の多型性は陸常者と比し,差がなかった。 2)PBCの標的抗原:従来よりヒト胆汁中より精製した,ヒト胆管上皮抗原P28はPBCの末梢血Tリンパ球を刺激する(J.Hepatology22:423)。P28のアミノ酸一次配列は免疫グロブリンfamilyと相関性が高い(未発表)。一方,PBCに診断的特異性の高い抗ミトコンドリア抗体(AMA)の対応抗原はpyruvate dehydrogenase(PDH)E2である事が証明されている。現在P28とPDH・E2に反応するT cell cloneをPBC患者の末梢血リンパ球より自己EBトランスフォームB細胞を抗原提示細胞に用いて樹立している。現在T cell cloneのTCRの解析を行っている。 3)PBCにおける新しい自己抗体:PDHのB cell epitopeとアミノ酸配列の相同性を有する,α-エノラーゼをヒト肝臓より精製し,PBC患者血清を用い二次元western blotにて抗体を検出した。PBC患者16/56人(28.6%)でα-エノラーゼ抗体が検出され,抗体陽性例は陰性例に比べ,予後が不良であった。
|