近年細胞死には、従来からよく知られている壊死(necrosis)の他に、アポトーシス(apoptosis)つまりプログラム細胞死(programmed cell death)があるが、心筋梗塞においてもアポトーシスが関与することがわかってきた。アポトーシスにはアポトーシスの防御因子すなわち生存因子と促進因子が存在する。これまでアポトーシスに対する生存因子であるbcl-2は心筋細胞では発現しないとされているが、虚血にさらされた心筋細胞ではbcl-2が発現することによって心筋細胞は生き延びるという仮説を考えた。 この仮説を証明するために、ヒトの心筋梗塞剖検心26例およびコントロール10例についてrisk area内の残存心筋に、bcl-2蛋白およびその遺伝子が発現しているかを免疫組織、ならびにin situ hybridizationにて検討した。また、ウサギの心筋梗塞モデルを50羽作製し、risk area内の残存心筋にbcl-2ならびにその遺伝子が発現しているかを免疫組織、エライザー、ウェスタンブロッティング、ノーザンブロッティングならびにin situ hybridizationにて検討した。 その結果以下のことが明らかとなった。 1)ヒトの正常剖検心にbcl-2の発現はないが、心筋梗塞急性期(発症5日以内)ならびに亜急性期(発症1カ月以内)においてrisk area 残存心筋細胞にbcl-2蛋白ならびに遺伝子が発現する。しかし、bcl-2の発現は陳旧期(発症1ケ月以上)には消失する。 2)30分閉塞後の再灌流というウサギ心筋梗塞モデルにおいては梗塞領域はrisk areaの約40%である。残りの60%の梗塞部残存心筋細胞にbcl-2蛋白ならびに遺伝子が梗塞急性期(8時間から2日)に著明に発現した。しかしこの発現は陳旧期(1カ月)では消失した。 結語 心筋梗塞急性期に梗塞部残存心筋細胞に発現するbcl-2は、アポトーシスの抑制因子であるので、虚血にさらされた残存心筋はbcl-2を発現することによって生き延びる可能性が示された。
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