研究概要 |
1 課税対象である水車の設置出願・廃止届出を規制していたのは各府県の布達類であるが,これらは歴年の「公報」によって各府県ごとにほぼ経年的にその改廃過程を追跡することができた。 2 この規制に基づいて提出された水車出願文書が,府県別にみて,ほぼ全域につき長期にわたって保存・管理されているのは,旧東京府,石川県,京都府,次いで群馬県である。県庁の失火によって明治期の文書を欠く栃木県も,大正期以降に関しては保存状態は良好である。 3 一部の県では,水車存廃の許認可処理事務が,ある時期に県庁から郡役所へ移管されたために文書の残存率が悪く,神奈川県では津久井・足柄上などの数郡,山形県では西村山郡一郡の関連文書を留めるのみである。 4 さらに残念なのは,かつて多数の水車を擁していた長野県,山梨県,新潟県,岐阜県などにまとまった形で水車出願文書が全く残存していない事実である。その原因は,水車があまりにも多数であったために行政当局が文書処理を疎かにしたことにあると推察される。 5 水車の用途は精米・製粉を主としながらも,製糸,撚糸,製材,陶石土粉砕,発電等々,各地で多様な種類が認められる。また,埼玉県の利根川筋では特異な水車形式の舟水車の出願があった。 6 水車の存在が潅漑,舟運などの他種の水利関係者との間に争論を引き起こす事例も,水車出願の関連文書として多く残されていて興味深い。 7 石川県,宮崎県などに大量に残されている大正期の水力発電出願文書を通じては,地元資本と中央資本,あるいは実業と虚業が入り乱れて繰りひろげた,錯綜した電源開発の状況が判明する。
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