研究概要 |
今回の研究を通して判明した知見は下記の通りである。 1.多くの先行研究で懸念されている「多重チャンネル・モード」による教材提示の否定特性が相対的に観察されたが,被験者のレベルに併せて提示方法を最適化することにより,否定特性をうち消すことのできる可能性のあることが判明した。 2.実験結果に鑑み,初級学習者はCC字幕に集中しやすくSV処理を施した映像効果が低いと思われ,SV処理映像は中・上級者レベルで効果を発揮すると考えられる。 3.キュー画像の効果が今回の実験で確認されたことにより,音声のみならず,画像情報にもストーリー理解に重要な要素が多く含まれていることが判明した。 映画の字幕部分は,平均して2秒程で消えてしまう。学習者は,その僅かな間に提示された語句の認識・解釈作業を行い,同時に画像及び音声理解のための情報処理を行っていることになるが,自ずからの限界があり理解不足が生じる。この点が従来指摘されている多重メディア学習がもたらす欠点(多重チャンネル間の相互干渉)であろう。しかし,今回の実験で用いた「SV処理音声・SV処理画像・英字幕・キュウ-画像」の概念を基に訓練を行えば,理解力増進につながるものと考えられる。これらの効果を解明するためには縦断的(longitudinal)な研究機関を設け,長期的展望に立ち,追跡調査を行うのが今後の第一課題である。また学習者が映像を視聴する際に、例えば本稿の実験で提示を行ったように、音声、画像、字幕、キュー画像等のどれに一番注意を払うかの視聴ストラテジーと内容理解度の関係を解明する必要がでてきた。また学習者の語学レベルそれぞれに適した認知型と多重メディア学習過程との関係の解明も必要である。
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