研究概要 |
本研究では、プラズマエネルギーの磁力線に沿った輸送(熱流)過程を,筑波大学のタンデムミラー装置ガンマ10の開放端部において,プラズマ粒子の速度分布と結びつけて,実験的に検討した。ここでは高温の電子と電位で加速されたイオンが流出している。端壁に到達する電子の量はイオンの量よりけた違いに大きく,低温の二次電子の還流によって端壁の浮遊電位が維持されている。一方,エネルギーは高温・低温の電子の交換に伴い端壁に流出するので,この解析のために,壁表面に近接した負の電位障壁を作るMesh-bias(MB)と,ECRHでピッチ角を増やし磁気ミラー反射で二次電子を阻止するThermal-dike(TD)を用いた。いづれの場合も,二次電子の還流抑制の結果として,一次電子に対する減速電位差が増大することがその流出の制御因子となる。 実験結果は以下の通りである。MBにより,端壁電位が深化し端損失電子量が減少し,端損失電子のエネルギースペクトルの低温成分(数百eV)が減少した。エンドシース前面域の電位は上昇して,mirror throatからエンドシース前面までの電位差は減少するが,シース内電位降下は増大する。一方TDでは,シース前面の電位はむしろ降下し,端壁の浮遊電位も深化する。TDにMBを重畳すると,シース前面の電位の深化は更に顕著である。つまり,プラズマ内の電位分布については単純なMBとは逆の傾向になる。端損失電子のエネルギースペクトルのTDによる変化は,時間的振動の中に埋れてしまって判別できない。端損失電子量の抑制効果はMBのほうがTDよりも顕著であり,電子熱流の抑制効果が高い。しかし,粒子の速度分布計測法の改善が課題として残された。 以上から次のような輸送過程が想定される。MBでは,二次電子が阻止され,その減少分に見合うだけシース電位が深化して,一次電子の反射量は増える。その電子密度の増加に応じて,イオン密度を増加すべくシース前面までのイオン加速電位差が減少する。TDが重畳されると,反射された一次電子の戻り道で,ECRHによって速度分布が変形され,mirro-throatを通過できなくなる。その一部は端壁へ再流入し,残りは磁場と電位に反射されるYushmanov補足電子となる。この補足電子の空間電荷によりシース前面のプラズマ電位は下降する。補捉電子は多重加熱を受けつつ最後はmirror-throatか端壁に到達するため,TDの重畳により端壁への熱流はむしろ増加する。端壁電位が浅いプラズマ条件で,TDによる熱流抑制効果は観測される。 本研究により,TD/MBをノブとして沿磁場輸送の物理過程を能動的に検討できる展望は大きく開かれた。更に,核融合分野だけでなく,日本の人工衛星により極冠上空で,Yushimanov粒子と想定される電子群が最近観測されたことから,本研究は新たな注目を受けることとなった。
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