研究概要 |
肝細胞増殖因子(HGF)は、胎生期の組織形成や障害後の組織再生に機能する増殖因子である。我々は応答細胞をHGFで刺激した時にc-Met受容体を介して強くチロシンリン酸化される分子量115kDaの蛋白を見出し、Hrsと命名した。この蛋白質を精製し、cDNAクローニングした結果、HrsはZn-fingerドメインをもつ新規の蛋白質であることが明らかになった。本研究ではHrsの機能を明らかにすることを目的として解析を行い以下の結果を得た。 1,細胞分画法および抗体を用いた免疫染色法により、Hrsの細胞内分布について解析した結果、Hrsは細胞質の初期エンドソームに局在することを見出した。Zn-fingerドメインを持ついくつかの蛋白質でエンドソームに局在するものが知られており、これらは小胞輸送に関与すると考えられている。したがってHrsも小胞輸送(たとえば増殖因子と受容体の複合体のinternalization)に関与していることが示唆された。 2,Hrsのチロシンリン酸化は、HGFのみならずEGFやPDGFで刺激した細胞においても見出された。したがってHrsは増殖因子刺激に対する共通のシグナル伝達分子であることが明らかになった。 3,Yeast two-hybrid法を用いてマウス肝臓cDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、Hrsに結合する蛋白質のcDNAクローンを得た。このcDNAの構造を解析したところ、このHrs結合蛋白質はSH3ドメインを有する新規の蛋白質であることが明らかになった。またHrs結合蛋白質に対する抗体を作成し、この抗体を用いてHrsとHrs結合蛋白質が細胞内で実際に結合しているかを調べたところ、種々の培養細胞内において両者が強く結合していることが明らかになった。したがってHrsはHrs結合蛋白質と相互作用することによりHGFのシグナル伝達に機能することが示唆された。
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