研究概要 |
報告者は,視細胞の時間分解能の高さを実現する分子的機構を解明する目的で,cGMP分解酵素(ホスホジエステラーゼ)阻害サブユニットの機能とその調節機構に関して検討した.さらに,このサブユニットのリン酸化が共存するイノシトールリン脂質の影響を受けることから,視細胞のcGMP分解系の機能調節とイノシトールリン脂質代謝系との関連を検討した. ホスホジエステラーゼ阻害サブユニット(Pγ)のリン酸化酵素に関しては,分子量42-45kDa,等電点5.2付近のCa^<2+>によって膜から遊離するタンパク質であることが明らかになった.しかし,絶対量が少ないことから抗体の作成及び遺伝子の特定には至らなかった.また,cAMP依存性プロテインキナーゼによってもリン酸化されることが判明した.リン酸化部位は35Thrであり,Pγキナーゼのリン酸化部位(22Thr)とは異なる.これらの研究の過程で,Pγの機能に関する新しい知見が得られた.PγはこれまでホスホジエステラーゼのcGMP加水分解を阻害する機能が明らかにされていたが,Pγがトランスデューシンαに結合するとPαβサブユニット状の非触媒的結合部位に結合していたcGMPが遊離されることが判明した.この事実はPγのもう一つの役割として,光依存的に減少した細胞内cGMP濃度を急速に回復させる機能,つまり,高い時間分解能を実現する役割をになっている可能性を示唆している. また,イノシトールリン脂質代謝阻害剤(U-73122及びネオマイシン)が光依存性cGMP分解に大きな影響を与えることを発見し,cGMP分解系と同一膜上に展開されるイノシトールリン脂質の代謝変動が光受容の感度や時間分解能などに大きな影響を与えている可能性を示すことができた.
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