研究概要 |
F1ATPase(サブユニット構成α3β3γδε、分子量38万)は,呼吸鎖が形成する、膜を隔てた水素イオンの濃度勾配をATPに変換するATP合成酵素の可溶性部分であり、生体エネルギー変換で重要な役割を果たす分子である.F1ATPaseの触媒機構の理解の深化のため、牛心臓のF1のヌクレオチド結合型構造モデルを使って、分子置換法を用いることにより、好熱菌F1のα3β3複合体のヌクレオチド非依存型の構造を3.2Å分解能で決定することを本研究で目指した.構造解析はいくつかの困難に遭遇したが、結晶構造を得ることが出来た. α3β3複合体の結晶化の困難さを、調製法の検討、結晶化条件の検討を行うことで克服した後、放射光で3.2Å分解能回折データを収集した.データ解析の結果、空間群はP312(a=160Å)と確定した.この回折データを用い、CCP4プログラムパッケージを用いて分子置換法による構造計算を行った.非対称単位あたりのモデルを確立したあと、rotation function, translation functionの計算,rigid body refinementを行った.更にXplorを用いて通常のrefinementを行い、現在Rfactorは16.2%である. ヌクレオチド非存在下で、3個のαサブユニット、3個のβサブユニットは等価であるような対称的構造をとる.これはヌクレオチド存在下でのミトコンドリアF1の非対称な構造と対照的である.αサブユニット、βサブユニットとも、ミトコンドリアのF1のサブユニットのうち、開いたサブユニット(αTP、βE)と非常によく似たコンホメーションをとっており、それをうけて活性部位のインタフェースは開いていることがわかった.
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