研究概要 |
二次イオン質量分析法を用いた鉱物同定の試みでは,当初,局所同位体比測定法であるSIMSによる分析を行いつつ,得られる質量スペクトルパターンから分析点の鉱物が推定できる方策を模索するため,鉱物ごとの特徴的質量スペクトルパターンの把握を試みたが,試料準備段階での表面研磨とその後の試料洗浄は必要不可欠で,この際に用いる研磨剤や洗浄液などからの汚染は避けることができなかった。とりわけ,研磨により試料表面だけでなくやや深部まで及んだ汚染により,化学量論的には現れるはずのないアルカリ金属の質量スペクトルが出現する結果を引き起こすことがわかった。この寄与は,地上物質分析の際にはそれほど問題とはならないものの,隕石などの宇宙物質の場合には致命的である。 これに対して,クロスチェック用として本補助金により新しく考案・試作した「試料直接充填法表面電離型イオン源」を備えた質量分析計(DLMS)では,隕石中の鉱物試料を微粒のままで化学的前処理することなく同位体分析できることがわかった。しかし,DLMSの場合でも,試料充填時に試料表面に接触する空気やピンセットなどによる汚染は免れ得ない。ただ,この汚染は内部深くにまで及ぶことはなく,試料蒸発初期に予備加熱時間をとることによって表面部分に付着した汚染物質はほぼすべて蒸発させ得ることもわかった。また,DLMSでの1回の同位体測定に必要な試料量は1mg程度で,低倍率の顕微鏡下で目的の部分を選択した後これを物理的にピックアップして試料台に充填する方法を取ることにより局所分析の特徴をも失うことなく同位体分析が可能なことがわかった。 これを受けて,DLMSにより,同位体比分析対象である元素Mg,Si,Li,B,Tiなどを含む試料について,微粒鉱物と質量スペクトルパターンとの対応性を検討し,ケイ酸塩鉱物についてはその鉱物に特有のパターンが存在する可能性があることが知られた。
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