研究概要 |
宇宙空間におけるヒトの行動を考察する時,その特異な環境下における視覚的認知(visual cognition)や,作業時の眼と手の協応動作(eye-hand coordination),あるいは眼と頭部・頸部の協応運動などに地上1G下の場合と微妙に相違するものがあることが予想される.この課題は,ヒトの宇宙空間における順応過程の研究の一環として大局的には位置づけることができるが,実際の作業を考察してみると測定,遠隔操作に係わる様々な人間-機械系の困難で解決されなくてはならない課題がある.特に本研究では,宇宙空間における運動知覚の異常は,このような自己中心の垂直軸と物理的垂直軸が一致しない環境下でのヒトの空間認識に係わる諸問題を,地上でプリプログラムされた行動の再統合の観点から検討しようとする目的を持っている.実験的微小重力環境下における視覚,前庭両感覚の協応関係の順応過程を明らかにした.とりわけヒトの視覚,前庭両感覚の短期的順応(実験的低/高重力環境),長期的順応(実験的視覚刺激の変換環境)を分析し両者の統合過程を解明する.具体的には,人為的低重力環境下での視前庭協応関係の検討を行ったが,主として前庭入力によって惹起された眼球運動に起因する感覚異常について検討を加えた.眼球運動の滑動性成分が視覚的運動知覚を強く修飾することはが最近の研究で明らかにされてきたが,前庭入力に起因する眼球運動もまたその例に漏れない.ここではそのような因果関係がSASの成因に重要な役割を果たしていることを検討した.平成9年度は本研究の最終年度にあたり、本研究所に設置されている全周体位傾斜装置を主たる実験装置として用い,重力に係わるヒトの運動知覚を,直接的に重力を変数として検討した。この時に眼球運動の回旋方向への運動成分を記録/測定可能にするシステムについても検討を加えた。また、ある種の眼球運動が運動印象に与える可能性について更に突っ込んだ検討を加えた.
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