研究概要 |
クラウンエーテル類は,それらが様々な金属イオンと錯体を形成することが判明して以来,ホストーゲストの化学において重要な役割を果たしていると同時に,高選択的に金属イオンを捕捉する新規イオノフォアの開発が注目されている.一方,環状α-ジケントであるトロポロンエノールは,金属イオンと錯体を形成する.これらの事柄を踏まえて,筆者は,錯形成可能な二つのファンクションを持つトロポン環を有するクラウンエーテルのホストーゲストの化学に興味を持ち,実際、トロポノイドクラウンエーテルを種々合成した.それらトロポノイドジチオクラウンエーテルのいくつかは,水銀イオンのみを捕捉することが分かっている. これまで,ジチオクラウンエーテルと塩化第二水銀の錯体構造は,単純な化合物についてはX線解析によって行われており,さらに,複雑な化合物については分子力学計算(CAChe Mechanics)や半経験的分子軌道計算(Fujitsu ANCHOR II)によって推定されている. 本研究では,トロポノイドジチオクラウンエーテル-水銀錯体の半経験的分子軌道計算(CAChe MOPAC ver.94)を行った.そして,仮想分子"トロポノイドジチオクラウンエーテル"-リチウム錯体について,非経験的分子軌道計算(ab initio,CAChe Mulliken ver.1.1.1)を行った. 計算の結果,トロポンカルボニル基が金属イオンとの錯形成において重要な役割を果たしていることが分かった.また,使用するハミルトニアン(AM1,PM3)によって異なる結果となり,半経験的分子軌道計算を錯体に適用する場合には注意が必要であることも判明した.
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