研究概要 |
近年高分子材料は工業材料として多種多様な用途に広範に使われている.しかしながら,その変形応答は金属材料とは異なり,微妙な熱,変形速度等の変化に強く依存している.これは,微視的には,空間的に階層構造をなしている材料の下位の層の固有な構造に変化が生じ,それが巨視的な変形特性に影響を及ぼした結果である.したがって,本質的にこのような材料の挙動を解明しようとするとき,最も基本となるマイクロな原子レベルまで遡り,その構造の運動から変形機構を解明し,より高位のメゾ・マクロレベルの層の変形挙動を予知することは最も基本的である. 本研究では,まず,変形に伴うポリマーのマイクロスケールからメゾスケールの構造の変化及び成長を走査型原子間力顕微鏡を用いて詳細に観察し,その特徴を明らかにした.次に,得られた実験・観察結果を反映する分子動力学によるマイクロスケールの変形挙動のシミュレーションモデルを構築した.さらに,マイクロスケールの変形挙動を平均化することにより,高分子鎖の変形による伸びあるいは回転に対する抵抗,あるいは高分子鎖の変形とそれをとりまく回りの物質との変形の差を検討した.また,メゾスケールの高分子鎖の回転および配向によるマクロスケールの応答の異方性,ならびに変形環境による非晶性から結晶性への相変態を含むメゾスケールの状態変化及びそれを反映したマクロスケールの高次連続体モデルを構築した.以上より,階層構造をなすポリマーの最も基本となる原子レベルからメゾ,マクロレベルの変形挙動の詳細なシミュレーションプログラムを作成することが可能となり,高分子材料の巨視的な外力及び変形拘束の下でのマイクロ・メゾ・マクロスケールの構造変化を予知することが可能となった.
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