研究概要 |
陸域から海域へ運ばれる土砂の大部分は洪水時に浮遊砂の形態で運ばれるので,これを観測することがこの土砂輸送量を評価するための基礎となる.しかし,市販の採水器は洪水時の早い流れに対しても,位置決めのため,鉛直に吊るす必要があり,このため重く扱いが厄介なものとなっていた. 洪水時の浮遊砂の特性を知るためには,多くの時空点での採水が必要であり,これを可能にする軽量で取り扱いが簡単な採水器の開発を本研究の目的とした.浮遊砂量を評価するためには,鉛直方向の濃度分布を測定することが重要であり,高流速の流れに抗して軽い採水器を底付近まで潜水させること,また潜水したとき,その位置は採水器投入点から下流に流された位置となるので,採水地点の鉛直位置を簡単に精度良く知ることの2点が本採水器開発の鍵となる. 前者については,前後に翼を取り付け,その向かい角を調整することにより,採水器の姿勢を制御すると同時に,洪水流から下向きの揚力を得え,採水器を流体力によって潜水させることを可能にした.すなわち従来,強い流れは採水器を沈めるために邪魔で,重量を大きくくすることにより潜水させていたのに対し,本研究は流体力を積極的に利用し,軽量のままで潜水を可能にしたものである. 後者については,空気柱をビニール管に閉じこめた,マノメータを開発し,採水と同時にマノメータの圧力導入口を閉じることにより,採水地点の圧力を記憶する装置を作り,ヴォイルシャルルの法則より,採水地点の水深を10cm以下の誤差で求められるようにした. 試作した採水器は,阿武隅川における回数の出水で現地テストと改良を繰り返した.採取した試料をコールターカウンタを使って分析し,各粒径毎に分けることにより,出水時の浮遊砂の鉛直分布特性を得ており,沈降と拡散の平衡を仮定して導かれたRouseの理論曲線と近い分布を示すものが得られている.
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