研究概要 |
本研究では光ディスク基板成形に用いる急加熱・急冷却可能な通電加熱スタンパを試作し,微細形状の転写性の検討を行った.100×10×5mmのセラミックス板(AIN)表面に無電解ニッケルメッキにより約10μmのニッケルそうを堆積させた.次に400℃で15分間熱処理し,表面をバフで仕上げることにより通電加熱スタンパとした.このスタンパの両端に電極を取り付け,表面のニッケル層に10Vの電圧をかけると15Aの電流が流れた.このときのニッケル層の表面温度を測定したところ,電圧をかけてから1.5秒後に20℃から100℃まで上昇し,電圧を切ると5秒で100℃から50℃まで降下することがわかった. この通電加熱スタンパを用いて射出成形を行い,成形品表面を光学顕微鏡で観察することにより転写性の検討を行った.実験条件は主にスタンパ加熱開始時間および加熱保持時間を変化させた.成形品の観察結果より,射出開始時刻2秒前に通電加熱を開始し,2秒もしくは3秒間加熱する条件で成形を行った場合に転写性が向上した.また,流動が停止してから加熱を行うと表面が高温になりすぎ,気泡が発生してしまうことがわかった.このことより射出開始前に表面温度がポリスチレンのガラス転移点(100℃)付近である場合に転写性が向上することがわかった. また,金型内の樹脂温度変化を,厚さ方向について一次元の固体熱伝導モデルとして数値解析を行った.ここで,樹脂温度250℃,金型初期温度35℃とした.その結果,微細形状の転写に影響があると考えられる表面から10μmの位置では,通電加熱を行わない場合にはすぐに金型温度まで下がってしまうが,通電加熱を行うと射出開始後約0.2秒間樹脂がガラス転移点以上に保たれることがわかった.これらのことより,本研究で試作した通電加熱スタンパは短時間の加熱を行うことで生産性を低下させることなく転写性を向上させることができることがわかった.
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