研究概要 |
化学増幅システムは,触媒となる金属イオンの速度論的超微量分析法として広く研究されている.当研究室では化学増幅反応の一種である自己触媒反応を数学的に解析することによって,「試薬濃度-時間曲線群は変曲点付近の形状が触媒濃度に依存せず一定であること」「その変曲点は触媒初濃度に相関すること」を見出した.この特徴を計測化学的側面から検討し,目的成分濃度に依存せずに一定のシグナル強度を与える「定感度計測法」の実現が可能であること,さらに,この計測法は理論的には無限の感度を持っていることを明らかにした。 これを実現する系の一つが,金属錯体分解を触媒する金属イオンをあらかじめ封じ込めておき,それを酸化剤で酸化分解するモデルである.当研究室が開発した速度論的識別モード(KD)-HPLCの結果および酸化剤の探索結果から,解離不活性であるピリジルアゾフェノール系コバルト(III)錯体とペルオキソ-硫酸の組み合わせを開発し,自己触媒増殖反応を終点検知反応として用いる定量システムの構築に成功した.本法では10^<-10>mol dm^<-3>レベルのコバルト(II)イオンの計測が可能である.さらに時間曲線群に微分処理を行うことで,影響因子である対称四級塩や臭化物イオンの定量にも成功した. また,この反応のメカニズムに関する情報の取得を目的とし,分光光度計およびストップドフロー分光光度計を用いて速度に関する実験を行った.並行してラジカル捕捉剤添加実験も行うことにより,配位子および錯体の分解反応はともに接触反応と非接触反応の併発系で構成されているが,その分解機構は異なっていることを明らかにし,理想系システム構築に対する指針を得た.
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