研究概要 |
粉末冶金法によるニチノール形状記憶合金の作成条件を検討し,従来の鋳造合金と同等の形状回復量を持つ粉末焼結合金を初めて製造したこと,およびその破壊条件と疲労特性を明らかにしたことが主たる成果である.Ti-50.0at.%Niおよび50.7at.%Niの組成の鋳造合金から,プラズマ回転電極法により平均粒子径287μmの粉末を作成し,熱間等方圧プレスにより焼結した.酸素,炭素,水素等のニチノール合金のマルテンサイト変態温度に影響する不純物元素を組成分析し,これらが粉末化と焼結過程において増加していないことを確かめるとともに,焼結体のマルテンサイト変態温度が粉末母材と等しいことを,電気抵抗-温度曲線から確認した.また焼結体の引っ張り試験により,鋳造合金と同等の7%の形状記憶効果が得られた.一方,形状記憶ひずみ以上の変形を与えた場合,焼結体は鋳造材のおよそ半分の最大ひずみ値で破断した.さらに焼結体は,7%の変形を繰り返すことで破断に至った.この原因は,7%を超えるひずみを繰り返し与えると,鋳造材,焼結体は,ともにすべりによる塑性変形を開始するが,焼結体の場合には,粉末接合界面でき裂が発生し進展して破断に至るためであることを確認した.表面観察では,このき裂は変形の初期からしばしば観察された.応力誘起マルテンサイト変態による擬弾性変形の繰返しでは,応力誘起変態はリューダース帯と類似した局所的な不均一変形によって進展するために,試料の伸びひずみは小さくとも,変形が集中している部分でき裂が発生することを確かめた.その結果,焼結体の疲労強度は擬弾性ひずみ振幅に強く依存しない結果を得た.
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