研究概要 |
医療分析において重要な意義をもつ血清中のアルミニウムに対して,8-キノリノールを用いる速度論的識別モードのミセルクロマトグラフィーによって,高性能かつ簡便な日常計測法を開発した.操作としては,血清60マイクロリットルを用いて,塩酸によってアルミニウムをキャリアータンパクから遊離させ,8-キノリノールとpH7.0において瞬時に反応させる.この試料溶液のうち10マイクロリットルをHPLCへ注入して,蛍光検出(Ex=370nm,Em=504nm)する.本法の高選択性と高感度性の機構としては,速度論的識別によって置換不活性な錯体だけがカラム内で生き残ってピークを与える現象,移動相にミセルを添加することで得られる蛍光強度の増大,ならびに血清の直接注入が可能なカラムを用いることによって除タンパクが不要である点,があげられる.界面活性剤の種類としては,ドデシル硫酸ナトリウムが最適で,非添加時と比べて約4倍の増感効果を示し,また血清タンパク質とアルミニウム錯体ピークとの分離にも有効であった.その他の共存物質の影響を検討した結果,銅,鉄,亜鉛、ヘモグロビン等血清中に過剰に存在する成分の妨害を受けないことが判明した.なお,微量アルミニウム測定に際しては,操作全体を通してアルミニウム汚染を防止することが重要であり,試薬類の精製によってこの問題が軽減されppbレベルの測定が達成された.本法の定量限界は1ppbである.長期人工透析患者および健常者の血清試料について,多数の分析を行い,従来唯一の測定法であったフレームレス原子吸光法との良好な一致をみた.本法の利点は,これまでフレームレス原子吸光法について指摘されてきた問題点,すなわち不完全燃焼や有機物のbuild-up,共存無機イオンによる干渉等の難点がなく,煩雑高価な機器を必要とせずに,技術的にも簡便な日常分析法を与える点にある.
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