研究概要 |
トレーサガス法は,環境中に存在しない不活性で無害なガスを空間に注入し,非定常濃度曲線から,換気特性を測定する方法である。とくにポイント測定が困難な大空間などにおいても換気風量などを総合的に推定できる特徴をもつ。 本研究では,測定フィールドとして秋田県北部で稼行している地下採石場(容積14000m^3の地下空間)を選定した。この地下空間は,主に入坑口(1カ所,4m×5m,L=110m)および排気風道(1カ所,1.8m×3m,L=115m)からの自然通気を主とした換気を実施しており,通常の通気計測が困難な面がある。とくに,地下採石場の気流速度変動波形から風向が時間帯によって不規則に変動するため,トレーサガス法による総合的な換気状態の把握は有効な測定手段であることが明らかになった。本研究では,SF_6を用いたトレーサガス法(光音響赤外検出法)を用いて,第一段階として縮小実験装置によって換気特性をおおまかに把握した上で、平成7年9月〜平成9年1月期までの期間におけるフィールドにおける気流環境の現場計測を連続して実施した。その結果,換気風量と換気回数は夏場低く,冬場に増加することが明らかになった。これは夏場粉じん濃度が上昇することとも対応している。また,坑内外の温度および坑内岩盤表面に関する季節変化を一年を通じて観察した結果,岩盤表面温度の変化は年間を通じて約8°Cであり,夏場に坑内気温が外気温よりも3〜4°C低く,坑内外の絶対湿度差から坑内で結露していることが裏付けられた。以上の結果から,夏場の換気量の減少原因として,坑内の岩盤温度が低いため坑外温度に比較し坑内温度がかなり低くなることが挙げられる。すなわち,岩盤との熱伝達により坑内気温が低下し空気密度が大きくなり,坑外との間で密度安定層を形成するため自然通気が抑制されたものと推定される。年間を通して換気状況を平均化するためには,夏場強制的に空間底部の温度の低下した空気に対して吸い出し方式の局部通気を実施することが考えられる。これによって発生粉じんも同時に排出でき,より経済的な坑内換気の実現が可能と期待できる。
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