研究概要 |
本研究は複素V(z)曲線解析法による材料表面の局所領域における弾性係数の分布を測定する超音波顕微鏡システムを確立することを目的としている.今年度では局所領域の弾性係数の測定の重要な応用の一つとして薄膜被覆材料に対する弾性係数の測定を試みた.まず,等方性基板に被覆ざれた薄膜の弾性係数,さらに膜厚,密度の同定も可能なシステムの検討を行った.システムの確認を行うための試験片として溶融石英上の厚さ約0.2μmの金薄膜を使用した.薄膜を伝播する波動の内,縦波,横波の強度が弱いことから表面波の速度を測定することが有効であることがわかった.基板上の薄膜では様々な表面波が存在することから,本研究では2つの表面波のモード,すなわちRayleigh波およびSezawa波の速度の測定結果および理論的に求められる表面波の分散曲線から逐次探索法を用いて同定を行った.この結果,材料を薄膜状にすることにより弾性係数および密度が若干低下することが明らかになった.さらに薄膜は実際には単結晶のような異方性基板上に作成されることが多いことから,異方性基板上の等方性薄膜に対する検討を行った.まず単結晶材料の弾性係数の同定を行った.実験ではGaAs(001)面を使用した.異方性弾性係数を同定するために方位角ごとの波動の速度を測定した.このために複素V(z)曲線法をラインフォーカスレンズ用に拡張した.方位角に対する縦波および表面波の速度の理論値と実験より得られた波動速度から逐次探索法により異方性弾性係数を同定することが可能となった.次に異方性基板上の薄膜について検討を行った.実験にはシリコン単結晶の(001)面上に蒸着された0.1から1μm程度の金薄膜を使用した.この場合,方位角ごとに異なる表面波速度を有し,複雑な伝播特性を示すことから弾性係数を同定するには至らなかったが,複素V(z)曲線法により表面波の分散性を実験的に確認し,今後,弾性係数の同定に繋がるデータを得ることができた.
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