研究分担者 |
鈴木 秀一 住友金属工業(株), 鹿島製鉄所・厚板管理室, 室長(研究者)
長江 守康 日本鋼管(株), 総合材料技術研究所・福山研究所, 課長(研究者)
川端 文丸 川崎製鉄(株), 鉄鋼研究所・厚板・条鋼研究室, 課長(研究者)
萩原 行人 新日本製鉄(株), 鉄鋼研究所, 部長(研究者)
南 二三吉 大阪大学, 工学部, 助教授 (60135663)
SHIMIZU Masato Kobelco Research Ins., Contracted Research Division, Manager
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研究概要 |
橋梁の長大化,ペンストックやラインパイプ,低温貯槽の大容量化など鋼構造物の大型化に伴い,設計応力範囲の拡大や重量削減などを目的とする高強度鋼の適用拡大の動きが高まっている。しかし、鋼材の高強度化は一般に破壊靱性の低下を招き,特に多層溶接熱影響部(HAZ)では時としてLBZと呼ばれる局部的に靱性の著しく劣化した領域が生じることもあって,靱性に優れた高強度鋼(とくに強度80キロ級以上の高強度鋼)の出現が期待されている。 高強度鋼溶接HAZの高靱性化という点では,これまでにもいくつか検討されてはいるが,それらは主に治金的観点からのもので,材料特性研究のみに終始したものが多い。しかし,材料を加工・接合し,組み立てて構造物を造っていくという,材料構造化プロセスの立場から見ると,単に材料設計の観点だけではなく,継手設計,構造設計の各段階での情報を機能的にリンクさせ,構造としての必要機能に応じて設計変数を最適決定することが要求される。その場合,各設計間のインターフェイスでの情報橋渡しをいかに行うかが肝要で,本研究ではそれらの情報の加工・伝達ツールとしてローカルアプローチを適用した手法を展開し,破壊制御のための材料設計に焦点を絞った実験と解析を実施した。 主たる検討対象は二相組織からなる鋼およびその溶接HAZで,まず,二相組織というミクロな強度不均質のなす働きを,破壊靱性というマクロな材料機能にいかにリンクさせるかについてローカルアプローチを適用した検討を行った。その結果をふまえ,微視的強度不均質をモデル化したFEM解析を行い,鋼材の脆性破壊性能を向上させる上でどのような不均質形態の制御を考える必要があるかを力学的観点から考察し,次のような知見を得た。 (1)ローカルアプローチで用いるWeibull応力は,破壊発生を支配する組織の破壊駆動力として,材料内の応力分布の微視的様相をマクロな特性としての破壊靱性にリンクする一つの評価ツールとなると考えられる。評価の骨子は,靱性試験片の全体解析で得られるマクロな応力分布を外力条件として,き裂先端領域の微視的不均質を考慮した応力分布を解析し,破壊発生領域を限定してWeibull応力を求めることにある。 (2)強度不均質をもつ二相鋼では,主に硬質相が外力を負担し,硬質相の応力が軟質相の応力よりも高くなる傾向にある。このため,マクロな応力分布から材料の破壊駆動力を評価すると,軟質相が破壊発生を支配する場合には過大評価,硬質相が破壊発生を支配する場合にはかなりの過小評価となる可能性がある。 (3)二相組織鋼の微視的応力特性は,第二相の存在形態の影響を受ける。その代表的な影響因子として,第二相体積率が同じ場合,a)硬質相と軟質相の包含形態,b)硬質相とマトリックスの強度比,c)硬質相の細長比(アスペクト比)がある。a)に関しては,硬質相の応力は硬質相が軟質相に覆われるかその逆かという影響をほとんど受けないが,軟質相の応力は包含形態の影響を大きく受け,軟質相が硬質相に取り囲まれる場合には軟質相の応力負担がかなり小さくなる。b)についてはマトリックスと硬質相の強度差の拡大,c)については硬質相のアスペクト比の増大が硬質相の応力上昇を生み,硬質相の破壊駆動力を大きくする。いずれにせよ,破壊を支配する組織の応力分担率を低下させることが脆性破壊抵抗の向上につながるわけで,構造用鋼およびその溶接HAZの材料設計においては,このような応力分布特性を具現化する不均質形態制御を考える必要がある。
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