遺伝子組み換えで解糖系活性を強化した遺伝子転換酵母の安全性を、解糖系側鎖で合成される毒物メチルグリオキサール(MG)の変動を指標にして評価し、以下の成果を得た。(1)ホルホグルコースイソラーゼ、ホスホフルクトキナーゼおよびトリオーズリン酸イソメラーゼの遺伝子で形質転換した発酵酵母を、グルコースを高濃度で含む発酵条件で使用した場合、細胞内部にMGが著量蓄積する。(2)MGは、解糖系側鎖の酵素メチルグリオキサーチ合成酵素(MGS)でジヒドロキシアセトンリン酸から合成される。(4)MGS欠損株では、MGの生成は顕著に低下する。以上の結果から、遺伝子転換解糖系強化酵母を発酵工業プロセスに導入する場合には、細胞内ケトアルデヒド、特にMGの量的変動の把握が安全性の面で重要であることを指摘した。 また、胞子におけるMGSの生理的意義について検討し、MGSの活性変動が胞子形成能と密接に関連していることを明らかにした。この結果を、胞子形成能が欠落しているために遺伝解析と交雑による育種の研究が困難な醸造酵母に応用することによって、高頻度で胞子形成能を付与する事に成功し、醸造酵母の育種と遺伝解析に道を拓いた。この成果により、平成7年度日本生物工学会から共同研究者に江田賞が授与された。 一方、大豆の主要種子タンパク質であるグリシニン遺伝子をジャガイモに導入した遺伝子転換ジャガイモについて、その安全性を評価した。ベクターのみを導入したジャガイモを対照として比較した。グリシニンの発現量は、ジャガイモ全タンパク質の約1%であった。タンパク質、炭水化物、脂質、繊維質、灰分、アミノ酸、脂肪酸、ビタミン含量に変化は認められなかったが、ジャガイモへのベクターそのものの導入が、アルカロイド系毒物であるソラニンやチャコニンの量を約2倍増大させることを明らかにした。遺伝子転換作物(生物)に使うベクターと対象生物との厳密な「相性」の解析が、遺伝子工学食品の安全性確保に必要であることを指摘した。
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