研究概要 |
1995年にトルエンの許容濃度を100ppmから50ppmに改訂するという勧告が日本産業衛生学会からなされた.現在,トルエン取扱い作業者については,労働安全衛生法により尿中馬尿酸量を検査(生物学的モニタリング)するよう決められているが,馬尿酸は一般の人でも飲食物に由来して尿中に存在するため,許容濃度50ppmにおいては尿中馬尿酸値から暴露の有無を判別することは難しくなると予想される.そこでわれわれは,これに代わる暴露指標として,尿中トルエンに着目し,まず,生物学的モニタリングのための簡便かつ高感度な尿中トルエン測定法を開発しようと考え,SPME(Solid-phase microextrction)を用いて、直接尿試料からトルエン等の揮発性有機化合物(VOC)を抽出,濃縮してGC(gas chromatography)で定量分析する方法を検討するとともに,このSPME法を用いて実際の有機溶剤作業者の尿中トルエン等の測定を試行した.その結果,以下のように測定法を確立することができた. 尿5mlを10ml容のバイアルに採り,メタノール50ml(検量線作成の場合はメタノールに溶かした混合標準液50ml)と食塩1gを加え,回転子を入れ,テフロンライナー付きセプタムでアルミシールし,よく混ぜる.それを倒立させて約1時間静置後,ヘッドスペース(HS)部分にSPMEを挿入し,試料液をスターラーで撹拌しながら5分間抽出する.その後,速やかにGCに導入し,2分間離脱させる. さらに,実際の有機溶剤取扱い作業者の尿中トルエン等を測定した結果,測定上の問題は何ら認められずに感度よく測定でき,尿中トルエンとトルエン暴露濃度との間には強い正の相関を得ることができた。 以上,今回開発したHS-SPME法で尿中トルエン濃度lppb程度は十分測定可能であり,また,高濃度域まで検量線の直線性もあるため,尿中有機溶剤測定による生物学的モニタリングの実用化が期待できる。
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