研究概要 |
【目的】エンドセリン-1(ET)は,血管内皮や心筋細胞などにて産生され,血管収縮作用や血管平滑筋増殖作用をして心筋肥大作用などを引き起こす.我々は,肺高血圧・心肥大・慢性心不全のモデルラットを用いて,内因性ETの病態生理的役割と拮抗薬の治療薬としての可能性を検討した.また,種々の循環器疾患患者の血中ET濃度を検討した.【方法】それぞれのモデルとして,モノクロタリン投与にて作成した肺高血圧症ラット,大動脈狭窄の手術にて作成した圧負荷心肥大ラット,冠動脈結紮により作成した慢性心不全ラットを用いた.これらのラットの血管および心臓におけるETの発現を,mRNAレベル及びペプチドレベル(組織ET濃度測定や免疫組織化学法によるET様免疫活性分布の観察)にて検討した.また,ETA受容体拮抗薬であるBQ-123の慢性投与が,これらのラットの病態に及ぼす効果を検討した.【結果】肺高血圧症ラットにて肺動脈壁の著明な肥厚が認められ,BQ-123の慢性投与はこの肥厚を顕著に改善し,肺高血圧症とそれに伴う右室肥大も改善した.肥大した右室にてRTmRNA発現が増大していた.大動脈狭窄により肥大した左室でもET mRNA発現が増大しており,BQ-123の慢性投与は心肥大を改善した.慢性心不全ラットの不全心筋にて,ET mRNA発現の著明な増大が認められ,BQ-123の慢性投与は心不全を改善した.これらモデルラットの心臓・肺においてET様免疫活性分布が変化していた.また不全心筋にて,アンジオテンシン変換酵素mRNAの発現は亢進していた.一方,ET変換酵素mRNAの発現は亢進が認められず,ゆえにET産生増大はET前駆体産生増大に起因し,ET変換酵素には依存しないことが示唆された.また,種々の循環器疾患患者にて,血中ET濃度の上昇がみられた.【総括】内因性ETは肺高血圧症における血管壁の肥厚や,心肥大及び心不全の進展に関与しており,ETA受容体拮抗薬はこれらの治療薬になり得ることが示唆された.
|