研究概要 |
Lester(Science 241,1057,1988)は、受容体,酵素,イオンチャネルなどの生体にとって重要な蛋白質のcDNAを確立した細胞系に導入して発現させ,細胞モデルを作製することで,薬物開発に有用なシステムを作り出すことができるとのべた。すなわち,機能的蛋白質のcDNAを本来の細胞ではない他の細胞に導入し,細胞系を確立すると,薬物の効果判定や創薬の開発に役立つモデルを作製できる。私達は10数年来,Ca^<2+>/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMキナーゼII)を研究し,最近数年においては,細胞内において細胞外からの神経伝達物質,細胞増殖因子などに反応して,活性化されることを神経細胞の初代培養細胞や確立した細胞系を用いて明らかにした。また,シナプス伝達長期増強(LTP)に伴って酵素活性の増強を報告した。 本研究では次のような点を明らかにした。1)ラット脳CaMキナーゼIIα,β,γ,δサブユニットのcDNAをそれぞれ特異的な合成プライマーからPCRの方法に基づき作製した。2)動物細胞の発現ベクター(pCAGGSneo)に組み込み,電気パルス法あるいはリポフェクタミン法を用いてPC12細胞,NG108-15細胞に強制導入した。CaMキナーゼII cDNAを持たないベクターを強制導入したMock細胞および野生細胞を対照細胞とした。3)CaMキナーゼIIαサブユニットをPC12細胞に発現させ,安定細胞を得た。ジブチリルcAMPによる神経突起伸展反応に対するCaMキナーゼIIα発現の効果を調べると,抑制することがわかった。細胞分化に対し,発現細胞は阻害的に作用することがわかった。4)CaMキナーゼIIδに対する特異的抗体を作製した。ラット小脳におけるCaMキナーゼIIδのcDNA配列を分析すると,核移行シグナルを持ち,核での存在が確認された。
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