研究概要 |
初期胚自身の内分泌代謝活動を研究する方法を各種開発し,特に非代謝性のグルコースを用い,1個の初期胚のグルコース取り込み能の発達機構を解明した.微小培養法,微量ウェスタンブロット法,定量的RT-PCR法,酵素的サイクリング法などの方法を開発導入した我々の研究では,初期胚は発育するにつれて糖取り込み能が増加し,その背景には初期胚の発育に伴う糖輸送担体GLUTの発現増加,および解糖系酵素であるhexokinase活性上昇があることを明らかにした. また生体内における初期胚の成熟分化機構を明らかにすると共に,体外培養によって発育させた初期胚の特性や,その際に培養液に加えた増殖因子などの影響を検討した.さらに,現在ヒト不妊症治療に応用されている胚凍結融解法が初期胚の成熟分化にもたらす作用についても解析した, 体外培養によって発育した初期胚はグルコース取り込み能発達が遅延し,これはGLUTの発現の障害によるものであり,これらの胚は体内で発育した胚に比べ着床能が低いという結果を得た.体外培養の条件に問題があると考えられる環境因子や生理活性物質の検定を行ったところ増殖因子であるepidermal growth factorがGLUTの発現を促進し,グルコース取り込みを亢進し着床能も増加させ,生理活性物質であることが明らかになった.また,凍結融解が初期胚の成熟分化にもたらす作用に関する研究において,凍結融解はグルコース取り込み機構の発達経過を一部障害し、このことが初期胚の発育生存能を減じている要因となっていることを示唆する所見を得た.また,凍結融解方法の違いにより,初期胚の機能分化に対する細胞障害の機構は異なっており,これらの知見により凍結融解法の改良,成績向上にも貢献した.
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