研究概要 |
筆者らが開発した2つの光学活性β, γ-不飽和アミノ酸誘導体の合成法のうち,ウィッティッヒ反応はケトンや脂肪族アルデヒドに対しては適用されておらず,ヘック反応は一般的なアリール体に対してはよい結果が得られていなかったので,これらの反応の一般的応用性を検討した. 1.ウィッティッヒ反応の脂肪族アルデヒド,脂肪族ケトン及び芳香族ケトンへの適用は,カルボニルα位水素の存在に起因する副反応あるいはケトン類の反応性の低さのためか,成功しなかった.従って本法の適用は,芳香族アルデヒドに限定されることが分かった. 2.窒素上の置換基をメトキシカルボニルとした分子内塩型ホスホニウムを用いるウィッティッヒ反応によって,酵母,高等植物あるいは哺乳類のフェニルアラニン転移リボ核酸微量塩基類の共通合成中間体の改良合成を実現した. 3.この反応をヌクレオシドレベルに適用し,立体化学的に純粋な重要合成中間体を得ることに成功し,微量ヌクレオシドであるワイブトシンの実用的合成,ワイブトキソシンの最初の合成を可能にした. 4.ビニルグリシンのヘック反応は水を溶媒とする場合でも炭酸水素ナトリウムを用いるのがよいことが分かった.このような反応条件下でも,複素環のヨウ化物や電子吸引性基をもつヨウ化ベンゼンとの反応は満足すべき結果を与えなかった.これに対して,ナフタレンや無置換あるいは電子供与性基を有するヨウ化ベンゼンでは95-98%eeの目的物が収率51-66%で生成した. 以上の結果,いずれの方法も単独ではβ, γ-不飽和アミノ酸誘導体の一般合成法としては成立しなかったものの,光学純度の高い(E)-2-(アリールビニル)グリシン誘導体の優れた相補的合成法となることが判明した.
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