研究概要 |
本研究では水溶性薬物のキャリアーとして多相乳剤を選択し,その調製法,製剤学的評価そしてDDSへの応用について検討した.多相乳剤の油相は,リピオドールと植物油または脂肪酸エステルとの混合油を用いて,水との比重差をなくした.親油性界面活性剤はHCO-40や50を,親水性界面活性剤はプルロニックF-88を用いた.内封する水溶性薬物としてバンコマイシン,シタラビン,ドキソルビシンおよびACNUを用いた.また調製法としては,攪拌乳化法と膜乳化法を用いた. 攪拌法,膜乳化法のいずれを用いても,4゚Cの保存条件下では相分離を起こさない安定な多相乳剤が調製可能であった.また多相乳剤の粒子径は両調製法である程度,制御可能であったが,特に膜乳化法を用いた場合,比較的均一な粒子径を持つ多相乳剤の調製が可能であった.しかしながら乳化に長時間を必要とするため,現時点では大量の多相乳剤調製には不適と判断した.薬物の封入率や放出性は各薬物により異なったが,製剤の処方(組成比や界面活性剤)や調製条件によりある程度制御可能であった. バンコマイシンを封入する粒子径3μmの多相乳剤を静脈内に投与した場合、薬物濃度の持続化が認められた。シタラビンを封入する多相乳剤は、3μmのものでリンパ節転移腫瘍に対して,30μmもので癌性腹膜炎に対して治療効果が認められた。ドキソルビシンを封入する粒子径30μmの多相乳剤を原発性肝癌に対して肝動脈内に,転移性肝癌に対して門脈内に投与した場合,いずれも生存期間を延長し,有用性が認められた.また,ACNUを封入する粒子径10μmの多相乳剤を髄腔内播種性転移に対して脳脊髄液腔内に投与した場合,生存期間が有意に延長した. 本研究の結果,多相乳剤は水溶性薬物のキャリアーとしてまた徐放化製剤として有用であり,その粒子径を制御することにより,種々に疾患に対するDDSて応用可能であると考えられた.
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