研究概要 |
スポーツ科学分野で実験動物の果たしてきた役割は大きいが、これまで実験動物の持つ特性に対し注意が払われてきたとは言い難い。実験動物を用いる最大の利点は遺伝的制御が可能なことだが、それらの遺伝的差異が小さく、また医学上の目的からその特性は穏和かつ動作が鈍い。一方、高い活動性を維持した野生種由来近交系マウスが国立遺伝学研究所で開発された。そこで、我々は、2系統の野生種由来近交系マウス(国立遺伝学研究所と米川博通氏:東京都立臨床医学総合研究所よりそれぞれ分譲)の運動能力を調べ市販近交系マウスと比較した。これら野生種由来近交系マウス間の限界走行時間の差は市販近交系マウスよりも長い(短い)走行能力を示しかつその変異が大きかった。また野生種由来近交系マウスは骨格筋でも市販近交系マウスと異なった。これら結果は野生種由来近交系マウスの有用性を示唆した。 さらに、我々は、エネルギーを産出する細胞内小器官のミトコンドリアに注目した。それは、独自のDNAを持ち、そのDNAの変異により疾病(ミトコンドリア病や老化)を引き起こすことが知られている。ミトコンドリアは母系遺伝し,その遺伝子導入は比較的簡単である。そこで、我々は、米川氏の協力の元、野生種由来のミトコンドリアに置換された近交系マウスを用い、運動や体重等の表現形に対するミトコンドリアDNAの差異の影響を検討したところ、それら表現型に影響を与えることを確認した。その影響は、受精卵の発生能(発生速度とその率)にも影響を及ぼすことを確認した。さらに,バイオテクノロジーによる実験動物作成に重要な環境(培養)条件を検討,選択できた。 個性を研究することは生命科学の重要なテーマの一つであるが,現在の実験動物には上記に記したように,新しい実験動物の開発が必要である。そして,ミトコンドリアの影響,または核とミトコンドリアとの相互作用について考慮する必要があろう。
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