研究概要 |
組換えDNA技術の発展により,有用タンパク質の遺伝子を大腸菌などの微生物に導入し,細胞内でタンパク質を大量生産させることができるようになった。本研究では,ミトコンドリアタンパク質前駆体のプレ配列を任意のタンパク質のN末端に付加することにより,大腸菌細胞内で発現させるときに封入体を作りやすい性質を与え,発現効率を上昇させ,細胞毒性を回避し,発現タンパク質の精製を容易にすることを目指した。 大腸菌内での発現効率が悪いタンパク質としては,酵母ミトコンドリアのMIF4pをとりあげた。このタンパク質はN末端側に自分自身のプレ配列を持っているが,このプレ配列を他のプレ配列誘導体に入れ換える。プレ配列誘導体としては,酵母シトクロムサブユニットIVのプレ配列の変異体であるSynA1,SynA2,SynB1,SynB2,SynC(ペプチドの長さ,電荷分布,物理的性質が異なる)およびT7TAGをとりあげた。MIF4pのN末端にこれらのプレ配列誘導体を付加した融合タンパク質を,遺伝子レベルで作製した。融合遺伝子を大腸菌用発現ベクターに組込み,融合タンパク質を大腸菌細胞内で発現させた。そしてその発現レベルを,野生型MIF4pのそれと比較した。発現レベルは,T7TAGがN末端側に付加したMIF4pが最も高く,続いてSynB2がN末端側に付加したMIF4pの発現量が高かった。SynB2-MIF4pの場合は,発現したタンパク質の大部分は不溶性の封入体に回収されたが,T7TAG-MIF4pの場合は主として可溶性画分に回収された。これらのペプチドを出発点として,部位特異的にアミノ酸を置換した結果発現量が増加したペプチドを選別していくことにより,大腸菌細胞内での発現量を増加させるペプチドの最適化ができるものと考えられる。
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