研究概要 |
キメラ酵素を作製する方法には様々な方法が知られている。その中で,相同的組換え法によるキメラ作製法は,制限酵素部位やプライマーDNAを必要とせずに一連のキメラ遺伝子を作製できるという特徴がある。このキメラ酵素作製法の蛋白質工学への適用範囲を調べた。用いた遺伝子は,大腸菌アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AspAT)と芳香族アミノ酸アミノ基転移酵素(AroAT)である。これらは,アミノ酸配列の相同性が44%,塩基配列の相同性が約50%の相同な酵素である。両酵素は,様々な相同性領域を持っているので,"相同的組換え法を利用したキメラ酵素作製法"の適用範囲を調べる系として適している。そこで,AspATをコードするaspC遺伝子とAroATをコードするtyrB遺伝子とを,プラスミド上で直列につなぎ,数百個のキメラ遺伝子を解析した。その結果,"相同的組換え法によるキメラ作製法"を利用すれば,全体の塩基配列の相同性が50%以下でも,部分的に相同性の高い箇所(10塩基中8塩基以上の相同性)があれば,キメラ遺伝子の得られることが明らかになった。さらに,この結果を基にして,制限酵素部位とは無関係に2つの遺伝子をつなぐ"Homologous Ligation法"を開発した。 得られたキメラ酵素の基質特異性を解析した結果,2つの基質結合ポケットを持ち,基質によって2つのポケットを使い分ける「1酵素-2基質」酵素の存在が明らかになった。また,疎水性基質の認識には,酵素分子の揺らぎが重要な役割をはたしていること,さらに,この揺らぎは耐熱性酵素の耐熱化と基質認識に巧妙に利用されていることなど,今まで知られていなかった酵素分子設計原理が次々と明らかになった。
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