近赤外分光法を食用油脂の劣化度の評価に適用するために、過酸化物価(POV)について検討した。過酸化度の異なる6種類の食用油脂のPOVと近赤外吸収スペクトルとの相関関係を解析したところ、2052、2086nmに高い相関が見られた。これらの2波長が油脂のヒドロペルオキシドの生成に由来していると思われる。また、2052nmでは相関係数(R)が正、2086nmでは相関係数(R)が負であった。従って、ヒドロペルオキシド自身の吸収に由来しているのは、2086nmにおけるピークであると思われる。しかも、2086nmのピークは、構造の異なる3種類のヒドロペルオキシド(t-ブチルヒドロペルオキシド、オレイン酸メチルヒドロペルオキシド、リノール酸メチルヒドロペルオキシド)をリノール酸メチルに混合した系でも存在し、POVとの相関も高かったことから、油脂ヒドロペルオキシドに固有のものではなく、ヒドロペルオキシド一般に共通するものであるが明らかとなった。しかし、ヒドロキシドを水素化ホウ素ナトリウムで還元したリノール酸メチルヒドロペルオキシドのスペクトルにも、この波長に近い2080nmにブロードなピークが存在し、その強度はリノール酸メチルヒドロペルオキシドの約1/2であった。これらのことから、2086nmにおけるピークがヒドロペルオキシドのOOH基に由来することが示唆されたが、OH基に影響を受けることは否定できない。しかし、酸化油脂中のヒドロペルオキシドが通常の条件下で還元されることはほとんどなく、ヒドロペルオキシドとヒドロキシドが共存することはないと考えられる。従って、酸化油脂の2086nm付近のピーク強度は、OOH基のみを反映すると言える。 以上の結果から、近赤外分光法による食用油脂の劣化度の測定は、指標にPOVを選択し、Key波長として2086nm付近の吸収を用いることにより、可能であることが示された。本法は操作が迅速、簡便であるという利点を有するため、化学分析法に代わるPOV測定法として、広く用いられることが期待される。
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