研究概要 |
法称の主著『知識論決択』(Pramanaviniscaya)第三章(=PVin III)の和訳研究(『東洋の思想と宗教』13,14)により、法称の帰謬法(prasanga)には、法称の帰謬還元法(prasangaviparyaya)を構成する為の能成要因となるという肯定的な面のあることが明らかになった。法称自身による帰謬法の記述は簡単なものである為に、その構成の仕方に関して注釈者達の間に解釈の相異が見られた。主たる相違点は、立論者にとって存在しない事柄を主題にした場合、帰謬法から帰謬還元法を構成できるのか否かを巡るものであった。諸注釈の解読研究により、PrajnakaraguptaがDharmottara説を批判していることが判明した。この成果は、PVin IIIの独語訳研究としてWiener Zeitschrift fur die Kunde Sudasiens(Band 41,1997)にも発表される予定である。法称の帰謬法説は、チベット仏教論理学にも影響を与えており、チベットの最初期の注釈者の一つであるgTsan nag pa(12世紀)は、法称の帰謬法論に基づき、詳細な論を展開している。そのgTsannag paの帰謬法論には、Prajnakaraguptaの見解とパラレルな部分があることを示した(この論文は、『第七回国際チベット学会議事録』(今年度出版予定)に収載される)。Bu ston(1290-1364)も、PrajnakaraguptaがDharmottaraの帰謬法の解釈に相異のあることを言及している。両者の注釈の文献学的な研究により、そのBu stonの言及が、実際に注釈者の論書の説にまで遡って跡付けられることを証示した(『今西教授記念論集』収載)。これらにより、帰謬法の解釈という視点から、インドの仏教論理学よりチベット仏教論理学への展開の様子の一端を明らかにした。
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