生物学と倫理学との関係を模索するこの研究は、平成6年度に科学研究費補助金の交付を受けた先行研究「生物学的倫理学の方法論に関する予備的考察」の成果をふまえて、次の三つを試みた。(1)現代生物学、特に生物進化論と行動生態学(社会生物学)から見た倫理現象の解明、(2)哲学的生命論の思想史的アプローチ、(3)生物としての人間という見地からの現代の倫理的問題へのアプローチ、特に生命倫理と環境倫理の諸問題へのアプローチ、である。(1)に関しては、倫理の生物学的取り扱いに関する欧米の代表的な考え方(肯定派と否定派)をサ-ヴェイし、おおよそ整理することができた。これをふまえて、より具体的な研究として、進化的利己/利他行動と、心理的利己/利他主義および倫理的利己/利他主義との関係を研究テーマとし、その一部は研究発表の形で公表した。(2)に関しては、社会ダ-ウィニズムや優生学などに関する思想史的研究をふまえつつ、それを現代的問題に適用して研究を進めた。具体的には、生物学的決定論の問題を取り上げ、その成果の一部を論文にまとめることができた。(3)に関しては、主として環境倫理の問題に研究を集中した。生物としての人間という見地から、換言すれば、生物としては人間は特別の生きものではないという生物学的見地から、「生命の平等」という思想を軸にして環境倫理上の問題点を吟味した。また、欧米で有力な「自然に権利を認める」という環境倫理思想や、生態学的なものの見方を提唱する思想動向について批判的視点から吟味考察を行った。これらの成果の一部は発表や論文にまとめることができた。さらに、この研究全体の大きな目的のひとつは、他領域の専門家との研究交流を行うことにあったが、人間行動の生物学や進化心理学、さらにはダ-ウィンの人間論に関する話を聞く機会をもてたことは、大きな成果のひとつである。
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