Ehrenstein錯視(以下、E錯視と略称)とは、例えば12本の線分を線端を等間隔に離して放射状に配置した図形(E図形と略称)を観察すると、E図形の中心部に錯視領域が出現し、線分が黒の場合は明るい円盤が、白の場合は暗い円盤が見える現象である。しかし、線端の位置を組織的に変えると色々な対称性あるいは形を持った錯視領域を出現させることが出来る。それらの錯視の強さをコンピュータ・ディスプレイを用いて心理学的に測定した。 線分の無い一様輝度図形、および線分を有するE図形を刺激図形として用いた。E図形は12本の線分の線端で囲まれる錯視領域とその周囲の背景領域に分かれる。E図形と一様輝度図形の輝度は3種類に変えられ、線分の輝度は白色あるいは黒色に固定された。E図形の錯視領域としては、正多角形(3、4、6角形)を基本図形とした。正多角形の頂点に線分の先端を一致させると正多角形の錯視領域が出現するが、線分を15°回転させて線端を頂点からずらすと丸みの付いた図形に変わる。free magnitude estimation法を用い、被験者にはE図形の錯視領域と背景領域および一様輝度面に対して感じる主観的な見えの明るさを数で自由に評定させた。その結果、正多角形の錯視領域と丸みの付いた形の錯視領域は形が著しくことなるにもかかわらず、見えの明るさの評定値には有意な差が認められなかった。この結果は、図形の形の情報と明るさの情報が異なる系によって処理されていることを示唆している。一方、背景輝度が低い場合には、一様輝度図形の見えの明るさは背景領域の見えの明るさよりも暗く評定される傾向があり、明るさ水準の低下が観察された。
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