研究概要 |
本研究では,小学校4年生5〜6名からなる男女混合の6つのグループに担任の教師を交え,身近な問題について討論させる課題解決場面の実験観察(15分間)とそれに付随する質問紙調査を行った。 実験観察では,それぞれのグループは,討論での教師の介入や指示におけることば遣い条件の違いにより,統制群,フォーマル(丁寧体)群,インフォーマル(普通体/友だちことば)群に分けられた。3群の比較検討から以下のことが明らかとなった。統制群で教師は,「課題提示」や「まとめ」といった,討論の区切りの場面ではフォーマルなことば遣いを,討論進行中ならびに討論を促進する場合にはインフォーマルなことば遣いをしていた。子どもは,教師のことばの使いわけに応じて自らもことばの使いわけをしていた。フォーマル群は教師が司会する会議のような形式で議論が進み,子どもの自発的発現が少なく,ほとんどがフォーマルなことば遣いであった。インフォーマル群では子どもたちからの活発な意見,子どもたちの間でのコメントが見られ,ほとんどがインフォーマルなことば遣いでの議論であったが,討論としてのまとまりには欠けていた。 相手・場面・意図の違いによることばの使いわけについての,子どもたちの認識状況の質問紙調査では,子どもたちが,相手のことば遣いに敏感に反応し自身のことばを調整する,また,慣習的表現(社会的言語)を借りて発話する(腹話する)など,状況に依存したことばの使いわけを意識していることが明らかとなった。 以上のことから,子どもは社会的相互交渉における相手のことばの使い分けに敏感であり,そこでの社会的言語を媒介とした相手と自己との対話・腹話(対話性原理)を通して,他の参加者と場面や意味を共有し,認識を形成していくという認識の社会的構成の過程が浮き彫りにされた。
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