研究概要 |
1.成人女性のアイデンティティ発達に関する諸外国と我が国の研究を総覧し、展望した(鑪・宮下・岡本『アイデンティティ研究の展望II・III・IV』ナカニシヤ出版,1995a,b,1997)。ここから得られた成人期のアイデンティティ発達に関する仮説的ビジョンは、個としての発達と関係性にもとづく発達が相互にかかわりあいながらアイデンティティは発達していくというものである。 2.育児期の女性、および老親を介護している中高年女性を対象に、女性特有のアイデンティティ危機(「個としてのアイデンティティ」と関係性の中核的要素である「ケア役割にもとづくアイデンティティ」の葛藤)と統合のあり方について実証的に分析した。 (1)育児期の女性のアイデンティティ危機と発達に関する研究:アイデンティティ危機解決のし方によって、統合型、伝統的母親型、独立的母親型、未熟型の4態様が見出された。夫との肯定的な関係や家族に対する積極的関与は、個としてのアイデンティティと母親(ケア役割にもとづく)アイデンティティの統合を支えるものであることが示された。 (2)高齢者介護によるアイデンティティ葛藤と発達に関する研究:高齢者介護者が介護役割を通じて体験するアイデンティティ葛藤と発達感、およびそれに関連する要因について検討した。介護者のアイデンティティ意識が高いこと、介護に対する肯定的感情、被介護者の人生の受容が、介護者の側の成長・発達感を促進させることが示唆された。
|