今回の科学研究費補助金によって次の5つの研究を行った。(1)既に実施済みの「性的被害の実態調査」の報告書公表。(2)同じく実施済みの「児童虐待の実態調査」の報告書・論文作成。(3)「性的な仕置きを含む体罰についての実態調査」の実施、集計、表・グラフ作成。(4)児童虐待・性的虐待の犠牲者に対するカウンセリング・処遇や虐待防止教育に従事している専門家からの聞き取り調査。(5)インセスト・サバイバー(子ども時代における親族による性的虐待の被害経験にもかかわらず生き抜いてきた人々)からの聞き取り調査。ここでは、既に分析も完了し、一部を論文として公表済みであり、また全データについての報告書もほぼ完成している(2)から得られた知見等について述べる。 大学・専門学校等の男女学生を対象に、「身体的」「怠慢・拒否」「性的」「心理的」被虐待経験を中心に調査を実施、456名から有効回答を得た。(1)両親から何らかの虐待を受けたことがあるという被虐待経験率は90.6%、「性的虐待」の経験率は7.5%であった。(2)両親以外の親族による被虐待経験率は31.5%、「性的虐待」の経験率は4.6%であった。(3)親族以外=他人による被虐待経験率は58.1%、「性的虐待」の経験率は24.9%であった。(4)両親/両親以外の親族による被虐待経験率は92.4%、「性的虐待」=インセスト的虐待の経験率は9.9%であった。(5)両親/両親以外の親族/他人による被虐待経験率は94.9%、「性的虐待」の経験率は30.9%であった。(6)両親/両親以外の親族/他人による最も傷ついた被虐待経験によって短期的トラウマを受けた者は95.1%、長期的トラウマを受けた者も46.6%に上った。(7)以上から、従来、児相の相談ケース等を対象に行った調査から推計された数値をはるかに上回って児童虐待・性的虐待が普及している実態が明らかとなった。我々の調査によって当問題の暗数部分に光が当てられたと言える。
|