ミクローマクロ問題にかかわる既存の業績を整理・検討した結果、以下の事柄を明らかにすることができた。 (1)構造機能主義に代表される社会学理論を検討し、社会学におけるミクローマクロ問題を解決するためには、数理モデルを活用することが不可欠であり、この点で従来の議論には大きな欠陥があることを示した。 (2)社会ネットワーク研究にとっても大きな成果であるモンゴメリ-の研究を検討したうえで、(1)かれの議論の不明確さは、個人状態の推移率(ミクロな変数)から社会全体の雇用率と雇用の不平等度という2つのマクロな変数によって直接に表示したうえで、「合成関数の微分法」を適用することで取り除くことができること、(2)ミクローマクロ問題を表現するのには、いわゆる「比較静学」(comparative statics)といわれる手法が有効であることを示した。 (3)前述の成果を踏まえ、比較静学の手法を「構造効果」(structural effects)の問題に適用した。その結果として、(1)社会学における典型的なミクローマクロ問題である構造効果は、パラメタが個人属性の集計値である特殊な形の比較静学分析の問題として処理できること、(1)構造効果は、個人間の相互作用のレベルに関する適切な仮定にのみもとづく数理モデルから演繹的に導出されるものであることを示した。またこの点で、吸収マルコフ連鎖モデル(absorbing Markov chain model)の有効性を示すこともできた。
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