熊本県球磨郡五木村に存在した旧地頭(ダンナ)家が、五木村の村落生活に果たした役割を再評価する目的で調査研究を行った。時代の変転により旧地頭家の立場も変わり、村外へ転出した旧地頭家もあるため、旧地頭家に関する伝承や史料を集成することを最大の目的にして、現地調査に重点を置いた。 とくに、各家の系譜伝承とダンナ家の存立を支えた焼畑経営に関する資料の収集に力を注いだ。具体的には、各家の過去帳を筆写することと、家の由来や系譜を語る墓碑銘や開拓伝承などの確認に意を用いた。また、焼畑経営の実態を把握する資料として活用すべく、ダンナ家当主の手になる日記の発見を心がけた。その結果、板木集落のダンナであった故佐藤忠氏が記録した農業日誌を見つけだし、翻刻して資料化するとともに、分析・考察を加えた。 以上の調査研究の結果、ダンナ家は従来から指摘されているような封建的な村落支配者として存在したとは言い切れず、一般農家に対してさまざまな形で支援をしていた側面が次第に明らかになったことが注目される。五木村が焼畑経営を中心に暮らしを立てていた時代においては、ダンナ家を中心にして1つの集落単位にまとまり、生計維持に腐心した姿こそが村落生活の原像として把握されるべきであり、この点で従来指摘されてきた封建ダンナ像を修正する必要が浮上してきたと言うことができる。
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