本研究における調査地は、北海道の白老、旭川、釧路、日高・二風谷などのアイヌ観光地であった。具体的には、アイヌ観光商品の変遷とその政策技術を記録し、アイヌ観光に従事する人たちから経験や意見の聞き取りを行った。 調査の結果、観光地での出稼ぎの経験が、彫刻、機織り、刺繍、舞踊、儀礼など、居住地で継承されるアイヌ伝統の技術の持続や展開に、重要な役割を果たしていることを裏づけることができた。しかも、アイヌの伝統技術の変容は、観光化現象のなかで引き起こされることが大きいことを明らかにできた。 また、近年重要性をましているのは、観光地の現場における博物館施設の役割の大きさである。つまり観光客は、たんなる表面的な観光だけでは満足せず、より高度で多様な情報を求めており、観光地はそうした要求に応えるべく博物館施設を設置する状況が出現している。アイヌ観光においても同様の状況があり、博物館活動のなかに伝統的文化や技術を生かす方向が模索されているという、技術の継承と観光地との新たな関係を、今回の調査で明らかにできた。 さらに、都市に居住するアイヌの人たちも、アイヌ文化の技術者研修などをとおして彫刻や刺繍などの技術を習得し、観光商品の製作に関与していることが判明した。若手のアイヌのなかには、伝統的な技術を用いてはいるが、現代生活のなかで利用できる作品の創作に積極的に取り組んでいる者が少なくない。差別を裏返しの力にして、アイヌへのアイデンティティを強化していく姿勢が、質の高い作品を生み出し、アイヌ文化への共感を生む結果ともなっているのである。
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