研究概要 |
本研究課題に対して交付された本年度科研費により購入できた新資料,耿雲志主編『胡適遺稿及秘蔵書信』全42冊(中国,黄山書社1994.12刊)は、北京の胡適寓居に遺留されていた論稿類を収集したものであり、第1〜4冊は水経注疑案関係、第5冊は歴史考証関係、第6〜9冊は哲学史、思想史、文化史関係、第10〜11冊は文学および文学史関係、第12冊は時事評論・雑文・講演単稿・序跛文、第13冊は劉記類、第14〜17冊は日記、第18〜42冊は来往書信が集輯されていて、本研究課題の研究上極めて貴重な資料である。 本資料第1〜4冊の水経注疑案関係の論稿は耿雲志の序文によると、台北胡適紀念館1970.6刊の『胡適手稿』全十集中の第1〜6集に集輯されているよりも早い時期の論稿であるという。 本研究課題の一部である「胡適の水経注研究」について、例えば、楊守敬が「戴襲趙」の水経注疑案の証拠として、趙一清と戴震による水経注の校訂が同一である箇所の多いことを挙げているのは、楊守敬が校勘額の本質と弁えていないことを示すと胡適が論じ(第1冊頁120)、アメリカの社会学者トーマス女士の近世に於る重要な諸発明のうち148件が、2人以上の研究者によって同時にそして独自に発明されているとの指摘を記録していて(第1冊頁40)興味深い。また、本資料中に水経注研究家の王重民や鍾鳳年との、『胡適手稿』には無い、別の来往書信が可成の多くあるのも注目すべき点である。 昨年、私は胡適の水経注研究は、楊守敬・熊会貞とは異なり、元来『水経注』それ自体の研究を専らの目的としていたのではなく,水経注疑案に答えるためであった旨述べた(森田明編『中国水利史の研究』国書刊行会1995.3刊頁517〜551)が本資料に、『水経注』研究の目的はこの本の誤字・脱字などを正しを読めるよりにすることであると胡適が明言している論稿があり(第1冊頁144)啓発を受けた。
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