本研究は反切という漢字の注音法を、音の取り出し及びその改良という実際的応用面に焦点を絞り、その実態を文献的に解明することを企図して企画され、平成七年度より九年度にわたる三年間の科学研究費補助金の交付を受けて遂行された。平成七年度は主として関係資料の蒐集を行い、宋代以来の等韻図の序や跋に見られる反切に関わる記述、あるいは明清以来刊行された地方韻書の反切自体及び反切に関わる記載、さらには唐宋以来の随筆筆記中の反切に関わる記載を蒐集・整理した。その結果、明清時代の地方韻書中には、反切による音の取り出し方に関わる記載の存在すること、そしてその取り出し方法に多様性のあることが明らかとなった。平成八年度においても、上記資料の蒐集をさらに進めるとともに、分析・解明の作業を行い、反切による音の取り出し方法は大きく口唱によるものと、等韻学的知識を応用するものとに大別できることを明らかにした。平成九年度は、上記関係資料を蒐集し、その不備を補うとともに、資料の分析・読解の促進を図った。さらに、これまでの成果に総合的は考察を加え、その成果をまとめて公表する準備作業に入り、本年度は論文「反切の実際的研究序説」をまず発表、その成果の一端を公表した。そこでは、反切成立当初においては、口唱により音が取り出されていたが、等韻学の成立以後はこの新知識を利用して音を取り出すことが考察されたこと、また近世以降は激しい音韻変化を蒙った結果、反切による音の取り出しに支障を感ずるようになり、その結果、音を取り出し易くするべく反切の改良が行われると共に、反切の原理を説いた種種の韻書・韻学書が大量に清代に生まれたことを明らかにした。なお、収拾した資料については今後もなお継続的な研究を行う所存である。
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