シェイクスピアは、同時代の他の作品に比べ、はるかに多く夢をイメージやモティーフとして作品の中で使ったが、その多くは当時の慣例に基いたものであった。しかし、四大悲劇を始めとする、いくつかの作品には、夢がそれまでとは全く異なる、新しい意味と役割を与えられている。シェイクスピアも引き継いでいた社会的、文学的伝統を明らかにするため、先ず、原始社会や古代宗教においては、神秘化、神格化された夢が、古代ギリシャに至って、意味のあるものと、無意味なものに二分され、それが、以後、信と不信、畏敬と軽侮の両極の間をゆれ動く、ヨーロッパ社会の伝統の源となったことを見た。 こうした古代ギリシャの考え方は、アルテミドロスやマクロビウスといった著作家や詩人チョーサーによって中世社会に伝えられ、それは、そのまま、16、17世紀の、シェイクスピアと同時代の思想家、哲学者達に受け継がれ、また数は多くない他の劇作家達の作品における夢も全て、古来からの慣習的用法に従っていた。しかし、シェイクスピアの作品では同様の伝統的用法が見られる一方で、それまでには全く見られなかった、夢を、想像力、潜在意識、無意識といった、人間内奥の心理や眞実の表現として捉える、現代心理学を先取りする使い方をしていることも明らかになった。
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