研究概要 |
ミルトンがその死の2年前に出版した書物に『ラムス論理学教程』(1672)がある.この書物がミルトンの作品に対して如何なる意味をもつかが、本研究の当面の課題であった.まずラムスその人の思想史上の意味を問い,イギリス,それもとりわけケンブリッジ大学で重んじられた理由を探り,ミルトンがその影響下にあることを明らかにした. 次いで,ミルトン以外の英国詩人たちには,どういうふうに受け容れられたかを尋ねた.マ-ロウの『パリの大虐殺』では,ラムス自身が登場人物としてあらわれ,刺客との形而上的な応酬の後に惨殺される.さらに溯って,フィリップ・シドニーとの関係を調べた.ミルトンやマ-ロウとは異なり,シドニーはラムスと直接会ったことがあると想定されるが,影響は間接的であった. ラムス思想の特長は,「二分法」と「artificial argumentとinartificial argumentの区別」にあるが,シドニーには後者の要素が欠けている.マ-ロウがこの二点を指摘するのは正しいが,この要素が詩作過程のなかにまで修造するためには,ミルトンを待たなければならなかった.
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