ビザンツ法史料の中でも「バシリカ法典」はユ-スティーニアーヌス帝(以下ユ帝と略記)以後の東ヨーロッパにおける法学の歴史を知るための最も重要な史料である。本研究は、同法典について、これまでの研究成果を基礎としながら、一つ一つの法文及びそれに付せられた注釈を解読、翻訳し、ビザンツ法学者の学問的方法、水準を明らかにしようとしたものである。研究の方法と成果の概要をまとめれば、以下の通りである。 もとより膨大な量の同法典を全体的に検討することは、多数の研究者による国際的な研究によってはじめて実現し得ることであり、本研究は、第12巻第1章「組合及び組合の解消について」を検討の対象としたにすぎない。しかし、この章には他の章に比べて比較的多数の注釈が残されており、ビザンツ法学者、とりわけユ帝法典編纂時及び直後の時代の法学者の著作に接することが可能である。 ビザンツ法学者にとって、研究の出発点ともいえるユ帝法典の翻訳については、ラテン語の用語をそのままギリシャ語の音で表記することが行われていある。このことは、彼らの理解が不十分であったというよりは、むしろ正確な理解を前提としての手段であったように思われる。その後、新注釈に見られるように、用語に対応するギリシャ語が用いられるようになるが、このことはビザンツ法学のいわば独立を意味しているものと思われる。これら法学者の学問的水準は、中世ローマ法学のそれに決して劣ってはいないこと、ユ帝法典について十分な知識と理解があることは、本研究においても確認することができた。今後の課題としては、関連法文の参照を求める注釈について、さらに他の章をも検討の対象に加えて、中世ローマ法学との比較を行うことである。
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