研究概要 |
本研究では,遺伝診断実施の際のインフォームド・コンセントの問題,遺伝情報の守秘とそれに基づく差別の問題,遺伝相談・出生前診断における基本理念と過失責任の問題に焦点を定め,法的・倫理的問題を検討した。その際に,必要に応じて,1996年のWHOのガイドライン草案やアメリカ合衆国の資料を参照した。 1.インフォームド・コンセントに関しては,日米におけるその基本理論を踏まえた上,遺伝子診断における問題として,とくに(1)任意性の確保,(2)説明されるべき事項,(3)説明の方法,(d)同意能力を欠く者,の問題を検討した。遺伝因子の遺伝するという性格のために,他の家族,親族の利益のために未成年者などの同意能力を欠く者の検査が必要となる場合に,特に困難な問題が生じる。個別の問題としては,新生児スクリーニングの場合の同意の問題を取り上げた。 2.遺伝情報の守秘と差別においては,基本原則を踏まえた上で,保因者であることが疑われる第三者に対して告知をする権限・義務について検討した。アメリカやWHOの指針によると,医師など医療従事者の側に告知する権限を認めても,告知を法的に義務づける見解は少なかった。また,遺伝情報による保険差別の問題では,主として,アメリカの動きからこの問題に対するあるべき対応を考えた。 3.出生前診断にかんしては,(1)WHOガイドラインを批判的に検討するとともに,(2)母体保護法の制定がもたらす問題を論じ,(3)wrongful birth訴訟とwrongful life訴訟について日米の判決を最近のものまで網羅的に分析した。
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