現代新儒学とは、中国において全面的に従来の伝統を批判した五四運動以後、自ら西洋の哲学・思想に触れ、時にはそれから深く学びながらも、耐えて儒学の基本的な正当性を主張し続けた中国系の思想家達の思想の総称である。彼等については、特に1980年代以降、大陸を含めて、中国系の人々の間では、極めて関心が高いにもかかわらず、日本では極端に研究が少ない。そこで、本研究では、まず、いわゆる現代新儒学の範囲を広くとり、その資料(思想家自身の作品および研究)の収集と読解に努めた。ついで、比較政治思想の観点から、現代新儒家の一部が、西洋近代の政治思想、就中、民主主義に対して示した積極的な肯定の態度に着目し、それを、日本において、やはり儒学の立場に立脚しつつ、西洋近代の政治の在り方や政治思想に肯定的な態度をとった3人の思想家、横井小楠・阪谷朗旗・中江兆民の思想と比較した。 以上の作業の結果、第1に、現代新儒家に対しては同じ中国系の人々からも激しい批判も出ており、そこに相当の説得力もあるものの、反面、その思想内容は多様にして豊富であり、影響力も大きく、重要な研究対象であることを確認した。第2に、上記の日本の思想家とは、時に依拠する経書の部分まで一致するものの、他面で、日本では西洋の思想を摂取するために儒学が動員され、儒学と西洋の文物の一致が説かれたのに対して、中国では西洋の文物の摂取の過程でなお儒学を護持するために儒学と西洋の文物の一部との一致が説かれるという、裏表の関係になっていることが明らかになった。第3に、上記の相違にかかわらず、比較を通じて、儒学が、しばしばなされている誤解に反し、単に専制的な帝政や権威への忠誠を擁護した思想ではなく、民主政や自由の擁護の方向にも働く思想でもあることを、多角的に確かめることができた。
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