研究概要 |
本研究は,ドイツの西側占領諸国相互の横の関係および,占領国と被占領国との縦の関係を意義づけるものである。これら占領諸国の中でも,従来は米国による主導性が強調されてきたが,本研究では,特に西側第二の大国であった英国の初期占領政策に果たした役割をクローズアップした。英国占領地区は,ドイツ重工業の心臓部であるルール工業地帯を抱えて、同地区における経済再建がドイツ経済全体に大きな意味を持っていた。そのため、同地区での英国の占領政策は、占領初期段階において重要な意味を持ち、また経済再建における労使関係の規範は、その後の占領時期にとどまらず、西ドイツ建国後も継続された。また、第三の西側占領国であるフランスのドイツ占領における役割は、当初の方針であるドイツの軍事的経済的復活の阻止から、米国からの対仏援助と引換えに、ドイツを西欧の枠組みに位置づけるより積極的な欧州再建方針へと転換した。このように西側占領国相互の関係も、米国の主導的役割にもかかわらず、対立と協調の関係が錯綜した。一方で、占領諸国と非占領諸国であるドイツとの関係も従来とは異なり、敗戦国であるというドイツ人側は最終的には占領諸国の政策に従わざるを得ないにしても、ドイツの行政主権の拡大を求めたり、また労使間の協定を占領諸国に認めさせるなどの局面もあった。このように占領国と非占領国との関係も単純な上下関係ではなく、相互に錯綜した局面が織り込まれていたのである。 以上のような研究成果は、西側各国の公文書館やドイツ各地の公文書館での一次資料に基づいた研究成果であるが、今回の研究は現在急速にデジタル化しつつある各国公文書館のオンライン検索やネットワークを活用したドイツ人研究者との交流という新しい方法論を駆使した点で画期的である。今後、さらに一次資料のオンライン検索の範囲が拡大されるに伴い、外交史研究も新しい研究段階に入った。
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