本研究の主要目的は、鉄道産業において公共セクターが民間セクターに転換していく際に、効率性を中心としたパフォーマンスがどの程度向上したのかを、日本国鉄の民営化および大手鉄道を中心とした私鉄産業を対象に計量的に分析することである。平成7年度の文献調査やデータ収集を受けて、平成8年度は生産性の向上や費用削減を中心としたモデル分析を行なった。また、経営形態と競争の存在による費用削減の効果についても大手私鉄を対象にモデル分析を行なった。これらの分析をいくつかの論文に発表し、また発表予定であるが、この2年間で得られた重要な成果を取りまとめると次のとうりである。 まず第一に、労働生産性で測られる生産性の向上に関しては、民営化によって大きく改善されたという結果が得られた。労働生産性比較モデルによれば、他の要因を除外した1981年から1991年にかけての民営化による効果は、約29%の生産性の向上をもたらした、という結論を得た。しかし、民営化されたJRに関しては、大手私鉄と比較してまだ生産性のレベルが20%ほど低い状態に留まっている。第二に民営化によって生産性が向上しても、安全性が阻害されるという結果は生じていないということである。統計的分析結果によれば、重大事故の発生率に関して民営化前と民営化後の間で差が生じていなかった。第三は、1970年から1994年にかけての国鉄・JR、私鉄産業に対してトランスログ型費用関数を推定し、民営化に伴う年間費用削減効果の抽出を行なった。その結果、民営化によって年間0.2%の費用が削減されたという結果が得られた。これは、年間約66億円の費用節約を意味している。第四は、公共セクター及び民間セクターに対して計量的分析を行ない、経営形態と競争の費用に対する影響を分析した。その結果その両方が重要な要因であることがわかった。すなわち、民間経営及びヤードスティック競争は費用削減の傾向があることが示されている。最後に、今後さらに詳細な検討が必要であるが、大手私鉄の間にはある程度のヤードスティック競争が働いていると推測される。
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